できる。今回いちばん強く見えるのは、「この世界で生きる人の、育ち・私生活・関係の変化をもっと見たい」という嗜好だと思う。
元の60案と比較すると、選ばれたのは45案だった。
| 分野 | 選択数 |
|---|---|
| A 発見・住居・所属 | 7/10 |
| B 生活・仕事・共同体 | 6/10 |
| C 過去編・思春期・育った環境 | 10/10 |
| D 恋愛・親密さ・生活と工学 | 10/10 |
| E ミステリー・旅・一日の事件 | 7/10 |
| F 構成実験・変わり種 | 5/10 |
45案と幅広く選んでいるので、選外を「嫌い」とまでは判断できない。ただ、C・Dが全案残ったことには、かなり明確な意味がある。
1.人物が「今のその人になるまで」を知りたい
Cでは、澪やヒナセだけでなく、ナギ、レイカ、カイ、ボルド、マコトまで全部選んでいる。
しかも、その過去は大事件や秘密の開示に限らない。買い物、予定のない休日、迎えに来なかった日、二人分の夕食も入っている。
ここからは、人物の好みや癖、待ち方、断り方が、どんな暮らしの中で育ったのかに興味があると読める。
C06・C07はR64、C09はR66でも残している。こちらの採点が重視した「第6話への接続」以上に、見たい人物の時間を優先している。
2.恋愛や親密さを、生活の具体的な行為で味わいたい
Dの全選択は大きい。若い二人だけでなく、ミネの昔の恋やボルドとの台所も残っている。
共通しているのは、服を渡す、返事を待つ、同じ部屋にいる、相手に合わせて道具を調整する、といった行為だ。
進は、誰かが特別になることで、普段の行為の意味が変わる場面に惹かれているように見える。同じ沈黙でも、同じ食事でも、その相手だから気になる。その細かい変化を見たい。
恋愛・親密さを描くこと自体が、作品の楽しみとしてかなり大きいのだと思う。
3.親しい相手にも、自分と違う人生がある話が好き
A03・A05・A06・D09は、特に共通点が強い。
- 共同体の全員が、同じ暮らしを望むとは限らない。
- 迎えに行っても、相手は帰りたいとは限らない。
- 帰ってきても、以前の役割には戻れない。
ここには、「大事な人にこうしてほしい」という願いと、本人の望みが食い違う痛みがある。
そして、離れることも、以前の形に戻れないことも含めて、関係を続けようとする。進はこういう変化にかなり関心があると思う。再会して元どおり、で終わらないところだ。
4.成果の後に残るものまで見たい
B04「直し続けない権利」、E08「取り返せない荷物」、C08「若いボルドの、よい工事」、A02「安全になった家から出る」が分かりやすい。
直せる。でも、そのために時間を失う。
よい工事だった。でも、困った人もいた。
安全になった。でも、住み続けられるとは限らない。
成功や善意が、その後の暮らしまで保証してくれない話を選んでいる。
これは悲惨な展開を求めているという意味ではない。F07「何も壊れない日」も選んでいるから、穏やかな成果を味わう時間も欲しい。その幸福と、解決しきれないものの両方に関心がある。
5.物や工学を通じて、人間関係が見えるのが好き
B05の工具、B07の地図、D02の生活道具、D10のシャワー設備、E08の家具。
これらは、触れる物を通じて「誰のものか」「どこまで頼めるか」「何を見せたくないか」「何を残したいか」が表れる案だ。
例えばD02なら、高さを調整する短い作業に、相手の希望を聞いていたかという問題が入る。
進の工学への興味には、物の扱いから人の距離や価値観が露出する面白さも、かなり含まれていると思う。
6.形式を変えるなら、人物の見え方が変わってほしい
F05「三回語られる訪問」とF06「明日の生活を、模型にする」は選び、F03の文書構成、F04の管を追う構成、F09の音楽的構成は今回は外している。
この比較からは、形式実験でも、同じ出来事が誰にはどう見えるか、その人がどんな未来を望むかが見える案に反応しやすそうだ。
ただし、これは他の傾向より確度が低い。文章での想像しやすさや、各案の書き方にも左右される。
この選び方を制作に生かすなら、新しい案では、出来事に加えて次の三つを出すと、進の関心に届きやすいと思う。
- 誰が、相手に何を期待していたか。
- その期待が、どこで食い違うか。
- 出来事の後、二人の間で何が変わるか。
一方、選んだ案群には弱点もある。多くが「相手の意思を尊重する」「限界を認める」「言葉を言い直す」という成熟へ向かっている。重ねすぎると、全員が分別のある同じ人物になりやすい。
進が惹かれている関係の痛みを出すには、分かっていても引き止める、相手の幸せを素直に喜べない、言い直す機会を逃すような不格好さも残した方が効く。
なお、今回の選別だけで「大胆な展開やロボットアクションへの関心が低い」とは読めない。追加60案はまだ比較対象になっていない。今分かるのは、どんな大きな出来事を起こすにしても、その中で人物の私的な願いと関係を十分に描きたいという傾向だ。
その方向はかなり有効だと思う。こちらの案も、衝突を作ったあとに「相手を尊重できるようになる」へ収束させすぎていた。
効くのは、相手の事情を理解したあとも、「それでも自分はこうしてほしい」を引っ込められないことだ。理解が深まった分だけ、わがままを言っている自覚まで生まれる。
例えば、今の人物から伸ばせる欲としては、こんな違いをつけられる。いずれも未確定の方向案だ。
| 人物 | 剥き出しにできる欲 |
|---|---|
| 澪 | 自分のした仕事に意味があってほしい。助けた相手から拒絶されることに耐えられない |
| ヒナセ | 自分たちで守った家に、皆にも残ってほしい。誰かが出ていくと、自分まで否定された気になる |
| ボルド | 都市で得た快適さと、自分のために使える時間を手放したくない |
| セナ | 澪の時間や関心を、自分に向けてほしい。その願いを仕事や他人に譲り続けたくない |
| レイカ | 原因を「自分が」突き止めたい。他の人に解かれるくらいなら、もう少し続けたい |
特に面白くできるのは、本人が自分のエゴを、責任や善意の言葉で包んでいる状態だと思う。
ヒナセは自分がボルドに帰ってきてほしいのに、「みんなが困ってる」と言う。
澪は拒絶されたくない気持ちもあるのに、「あなたたちのためだから」と説明を続ける。
レイカは自分が決着をつけたいのに、「原因を残したままじゃ危ない」と主張する。
その理由には実際の正しさもある。だから本人も周囲も、簡単には切り分けられない。ここに人物ごとの濁りが出る。
A06も、ヒナセがボルドの意思を受け入れ、必要な助言だけ頼んで帰れば、きれいな成長になる。でも、都市での暮らしを楽しそうに話すボルドに、ヒナセがどうしても笑えないなら、その場面はもっと残る。無事でいてほしかった。その願いはかなった。それでも、迎えを必要とされなかったことが悔しい。
そして、毎回その回のうちに謝罪や言い直しまで済ませないことだ。言ってしまった言葉が残る。翌日も仕事では協力する。でも私的な話はしなくなる。そういう時間を通すと、関係に履歴ができる。
全員を同じ方向へ進ませないためには、人物ごとに「何を得たいか」と「何だけは譲れないか」を別々に置くのが効く。ある人物の成長が、別の人物には置き去りにされた経験になる。そのずれを、物語の中で十分に生きさせたい。
確認すると、その感覚は合っている。内面の断片はすでにあるけれど、「欲が満たされないとき、その人はどう振る舞うか」を通して整理した資料は薄い。
生活設定資料には、かなり近い記述がある。
例えばナギには、「他人を管理しなくてよい時間が好き」「自分から距離を詰めるのは平気だが、一方的に詰められるのは嫌」とある。これは十分に身勝手さの種になる。ナギとレイカが互いに何を求めているかも、すでに書かれている。
ただ、レイカが一人でいたい日に、疲れたナギが安堵を求めて訪ねたらどうなるかまでは決まっていない。そこで遠慮できるのか、居座るのか、不機嫌になるのか。その違いが、今回ほしくなった部分だと思う。
既存資料との関係は、こう整理できる。
| 資料 | 主に扱うこと |
|---|---|
| 人物設定 | 性格、思想、役割、行動原理 |
| 生活設定 | 好みや関係が、部屋・服・習慣・身体にどう表れるか |
| 今回足したい資料 | 何を欲しがり、何に傷つき、欲が衝突したとき何をしてしまうか |
名前をつけるなら、**「人物の欲望・葛藤・関係性設計」**くらいが近い。「エゴ一覧」だと、全員に欠点を配る作業になりやすい。
一人について、まずこの六つがあれば使えると思う。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 本人が認めている望み | 自分でも口にできる、欲しい暮らしや関係 |
| 認めたくない望み | 嫉妬、依存、優越、楽をしたい気持ちなど |
| 特定の相手への要求 | 誰に、何をしてほしいのか |
| 傷つく拒絶 | 何をされると、自分まで否定されたと感じるか |
| 満たされないときの行動 | 黙る、押す、避ける、貸しを持ち出す、過剰に働くなど |
| 踏みとどまる境界 | 欲しくても、その相手にはしないこと |
特に必要なのは、相手ごとに要求が違うことだ。同じヒナセでも、ボルドには帰ってきてほしい、カガリには自分の側にいてほしい、澪には助けられる立場に置かれたくない、という具合に分けて検討できる。これはまだ構想例だけど、場面を作る力がある。
この資料の結末を、全員「やがて克服する」に揃えないことも大事だ。満たされる欲、諦める欲、隠し続ける欲、関係を壊してでも通す欲があっていい。
なお、さっきの「ヒナセが倉庫そのものに執着する」という例は少し飛ばした。既存資料には、倉庫へ永住する強い執着はないとある。今ある言動から欲を掘り出すことと、新しい欲を設定として加えることは区別したい。 その区別も、この資料に必要だと思う。
そうだと思う。恋愛には、「相手が幸せになってほしい」と「その幸せの中に、自分がいてほしい」が同時に存在する。 その二つが食い違ったときに、エゴが露出する。
選ばれたい。触れたい。自分にだけ見せる顔がほしい。ほかの人で満たされてほしくない。そういう欲は、相手の事情を理解しても消えない。しかも相手にも意思と欲があるから、こちらの望みどおりにはならない。
今のバベルの人物たちは、仕事や共同体の中で「何をすべきか」を考える場面が多い。恋愛を描くと、そこへ**「自分は何を欲しいのか」「あなたに何をしてほしいのか」**が入り込む。
例えば、セナが澪の仕事を理解し、尊敬している。それでも、自分との約束を仕事で流されたら腹が立つ。事情は分かっているから、腹を立てた自分にも苛立つ。でも、会いたかったことは引っ込められない。そういう矛盾を、そのまま生きさせられる。
そして、愛情も身勝手さも本物でいい。相手を気遣った行為の中に「好かれたい」が混じっていても、その気遣いまで嘘になるわけではない。
だから、進が恋愛で描きたくなっているのは、役割や理性では収まりきらない、その人固有の欲なのだと思う。普段は分別のある人物ほど、たった一人を前にして分別が働かなくなる。その落差には、かなり強いドラマがある。
6m 39s考えました
できる。前半と今回を合わせると、いまの『バベル』には、生活と技術を描いてきた蓄積を使って、かなり違う種類の物語へ進める可能性がある。
前半では「この人たちは、これからどう暮らすのか」が強かった。後半ではそこに、「この人たちを知らない場所へ連れ出したい」「立場を崩してみたい」「大きな機械が動くところを見たい」「世界そのものに驚かされたい」が加わっている。
見送った案については、進が言うとおり、採用時期の判断として扱う。今回の選択から、関心のある方向を読むことはできるけれど、外れた方向への関心の薄さまでは判断しない。
まず、残した案には六つほど、違う可能性が見える。
| 今ある可能性 | 特に表れている案 | そこで描けるもの |
|---|---|---|
| 身体と機械で人物を描く | G04・G05・G06 | 自分の機体を失う、他人と動きを分け合う、生身で巨大なものに近づく。腕前、恐怖、信頼が動作として現れる |
| 私情で仕事や立場を乱す | K06・K07・K09 | 演技を終えたくない、相手を攻撃したくない、仲間を食べさせるためにしたことを否定されたくない。個人的な欲望が事件を動かす |
| 対立する側にも物語の中心を渡す | H02・H08・L08・L09 | 都市の判断を受ける人、都市へ要求する人、都市を恐れる人が、自分の目的で行動する |
| 知らない暮らしを訪ねる冒険へ進む | I04・I05・I06・I07・I10 | 同じ世界でも、住み方、常識、歴史の説明が違う。移動と出会いそのものが物語になる |
| 機械や記録から、不気味さと愛着を生む | I09・J02・J04・J10 | 人がいないのに残る営み、まだ起きていない死の声、誰かの癖を残す機体。説明する前から感情が動く |
| 世界や人物の前提を組み替える | L03・L06・L10 | 育った場所が違えば同じ人物はどうなるか。住んでいる都市が動いたら、空が人工物だったら、何が変わるか |
この六つは、それぞれ違う楽しさを担える。すべてを一つの主題へ揃える必要はないと思う。
今回、人物について特に目立つのは、「いつもの立場が通用しなくなったとき、その人から何が出るか」への関心だ。
G04では、セナから使い慣れた白い機体が離れる。K02では、澪とヒナセが、普段なら共有する必要のない過去を家族として説明しなければならない。K07では、カイの仕事と私生活が同じ相手へつながる。L09では、都市側の人間が、受け入れてもらう返事を待つ。
どれも、その人物がこれまで使ってきた「自分はこういう立場だから」という説明を揺らす。
これは、話していたエゴの問題とよくつながる。役割だけでは答えが出なくなったところで、「それでも自分はこうしてほしい」が出てくるから。
たとえばK06には、恋人役を演じる楽しさに加えて、任務中なら求められた親密さを、任務が終わってからも欲しがってしまう可能性がある。相手が同じ気持ちかどうかは別の問題として残る。L09なら、受け入れを求める澪たちにも、条件を付けるヒナセたちにも、正当な事情と個人的な好き嫌いを同時に持たせられる。
前に整理した、ヒナセの「帰ってきてほしい」とボルドの「都市の暮らしも手放したくない」も、この方向の材料になる。すでに本文にある食い違いを、次の行動へ進められる。
一方で、今回の選択を全部「人物の欲望を描きたい」にまとめるのも、狭くなる。
G03の、扉が開くたびに違う高さの街が見える戦場。I04の、窓に灯りをともして外壁を移動する集落。L10の、空が開く瞬間。
これらには、景色や動きそのものへの欲求があるように見える。「この絵を見たい」「そこを歩いてみたい」「こんな大きさのものが動くと怖い」という関心だね。
前半の生活描写にも、水が出る、身体を洗える、服を選べるという感覚的な喜びがあった。その感覚が後半では、巨大さ、速度、高低差、未知の空間へ広がっている。生活の細部と、大きな風景の両方に関心がある。 ここは、今後の『バベル』の見せ方をかなり広げられる部分だと思う。
政治劇の可能性にも、変化がある。
これまでの中心には、資源や構造の制約から、望まない選択を迫られる人々がいた。H01、H08、K09、L08では、そこへ自分の目的で他人の判断や生活を動かそうとする人が強く入ってくる。
「事情を知れば理解できる」ところから、さらに先へ進める。理解したうえで要求を拒むこともあるし、助けた相手が自分へ敵対し続けることもある。自分たちにとって必要な行動が、別の人には許せない行動になる。
ここには、全員が同じ成熟へ向かう流れを崩す可能性がある。ただし、敵側にも事情を付けただけでは変わらない。事情を説明したあとにも、その人が何を要求し続けるかが必要になる。H08の避難民なら、苦境を分かってもらえたことと、住まいや仕事を得られたことは別だから。
「今現在持っている可能性」を、作品の準備状況から見るなら、こう分けられる。
- 既存の人物の蓄積から進められるもの。 恋愛、依存、帰属、特別扱いへの期待、役割を返したくない気持ち。前半のA・D群と、後半のK群の一部がここにつながる。新しい制度を増やさなくても、関係を動かす余地がある。
- 新しい事件を一つ設計すると開けるもの。 機体を失う話、占拠、技術の転用、過去の取引の追及、都市側の避難。現在の世界で、人物に違う行動をさせられる。
- シリーズの進む先として持てるもの。 移動集落、別の生態系、下方の生活圏、未来通信、動く都市、外側の人工空間。世界の仕組みを決める作業が大きい分、長い物語を始める力がある。
この三つは並行して持っておける。直近では人物の関係を進めながら、遠くに移動集落や都市の正体を考えておく、という持ち方もできる。
そして、前半と後半を通して気をつけたいのは、事件や世界を大きくしても、人物の結論を毎回同じにすると、以前の問題は残ることだと思う。
二人で一機を動かせたからといって、私生活まで分かり合わなくてもいい。敵の暮らしを知っても、許せないものが残っていい。恋人役を終えたあと、一方だけが続けたがってもいい。
次に案を育てるときは、今ある「見たい一場面」に加えて、**「この話で、誰が何を諦めたがらないのか」**を書いてみるとよさそうだ。映像としての欲求と、人物自身の欲求。その二つを別々にはっきりさせると、今回残した幅を保ちながら、物語の方向を選べる。
2m 26s考えました
その組み方なら、食卓から上層へ、生活のつながりをたどって世界を広げられる。 澪たちが食べているパンにも、育てた人、粉にした人、運んだ人がいる。その向こうに森や農場が見えてくる、という入口は、今まで描いてきたものとつながる。
資料を確認すると、ここはまだ広げられる部分だった。商業設定には「荷受け・卸→市場・売店→購入者」の流れがあるけれど、その手前の食料生産は、まだ具体化されていない。
一方、宗教・死生観の資料には、既に次の足場がある。
- 高層は黒海から遠く、中枢設備が集まり、都市全体を見る場所でもある。
- その地理的条件が、上昇や神への接近という文化的な意味と結び付いている。
- 「上庭」「白庭」「高苑」など、自然や光を連想させる高層区画名が候補にある。
そこへ実際の緑や生産地を置くと、名前に具体的な風景が伴う。昔の人がその場所をどう見たかと、今そこで働く人の生活を重ねられる。
ただ、上層の環境には一つ留意点がある。生活設定では**「上層ほど寒い」**。だから、今考える配置としては「今の生活圏より上にある、採光と温度管理を備えた生産帯」くらいが扱いやすそうだ。最上層まで一気に固定する必要はなく、光、水、熱をどう確保するかは、その場所を描く段階で詰められる。
そして、森そのものの魅力も残したい。
例えば新しい設定案として、大きな採光区画の中に畑や果樹園があり、飼育区画や加工場が続き、その奥には何世代も育った樹林がある。人が毎日刈り込み、収穫する場所と、人が入り込まなくなった場所が隣り合っている。
パンの原料を作る畑と、牛や鶏や羊を育てる場所には、それぞれの仕事がある。森には、さらに別の時間が流れている。そうすると、食料供給の説明にもなりつつ、枝葉の向こうに金属の柱が見えるというI06の風景も持てる。
また、市場へ継続的に出荷しているなら、生産地の存在は流通に関わる人々には知られているはずだ。ここは、澪たちは産地の名前を知っていても、そこでの暮らしや景色は知らないという距離にすると自然だと思う。袋に印刷された地名と、自分の身体で訪れた場所は全然違う。
第6話では、三つの役割をこう置けそうだ。
要素 第6話で担うこと 上層につながる入口の例
第5話からの本筋 倉庫の発見、ボルドの帰属、住民の生活を動かす ミネの仕入れやヒナセたちの受注に、生産地側の取引相手が現れる
恋愛 特定の相手と、何をしたいのかを具体的にする 買い物や食事から、二人で行ってみたい場所の話になる
上層・森 都市にはまだ知らない暮らしがあると感じさせる 産地名、運搬人の話、季節の品物、短い風景の描写
全部を一つの事件で回収しなくても、この三つは同じ食べ物や物流を通じて触れ合える。
恋愛との組合せで面白いのは、同じ場所へ行きたくても、理由が違うことだと思う。
仮に、澪はパンの生まれる場所や知らない風景を見たくて、セナは澪と仕事を離れて過ごしたい、とする。二人とも出掛けたい。でも、現地で澪が設備や働く人ばかり見ていたら、セナは面白くないかもしれない。そこで出る「今日は、私と来たんじゃないの」は、上層の世界を見せることと、相手への要求を描くことが同時にできる。
もちろん、これはこれから選べる展開の例で、二人の動機を今確定する話ではない。ただ、上層を恋愛の背景に置くなら、綺麗な景色を二人で見て終えるより、その時間をどう過ごしたいかの違いまで持たせると、話していたエゴにも届く。
第6話では、産地の名前を知り、そこから来た人に会い、「あそこへ行きたい」という願望が生まれるところまででも進展になる。短く上層の風景を見せるなら、貨物の積出し場の向こうで枝が揺れている、といった一場面でもいい。
設定側ではパンや肉が食卓まで届く大枠を考えておき、本文では、その回の人物が欲しがったものから見せていく。第6話の本筋と恋愛を進めながら、次に歩いていける世界も育てられる。
1m 51s考えました
する。食べ物を生む場所がそこだけなら、バベルの森には、都市全体の命が預けられている感じが出る。 普段は配管や貨物を通して受け取っていたものが、そこでは実を結び、育ち、増えている。あの金属と黒海の世界で、それを目の前にすると特別だと思う。
NOIRの荘園という連想も分かる。アルテナが暮らす荘園にはブドウ農園があり、霧香を迎え入れる生活の場と、儀式の場が重なっている。 私の読みでは、あの独特の雰囲気は、穏やかな暮らしの奥に、その場所だけの強い秩序があることから来ている。
バベルの森にも、その感触を持たせられる。
入口までは鉄板の床で、靴音が響いている。中へ入ると土になり、足音が消える。葉の擦れる音や動物の声がして、枝の隙間から巨大な梁が見える。木陰にいても、遠くでは送水ポンプが動いている。
そんな風景なら、緑の美しさと、それをここまで残してきた時間を、一緒に感じられる。そこで働く人が枝を切る、種を選ぶ、家畜に餌をやる。その普通の手つきまで、外から来た人には何か厳かなものに見えるかもしれない。
唯一の生産地という条件は、森の住人の言葉にも重さを与える。 「そこには入らないで」「これはまだ採らないで」という一言が、都市で聞く立入制限とは違って響く。実際に生命を守るための習慣が、長い時間の中で儀礼になっていても自然だ。
前に考えていた、高層へ上がることと神へ近づくことが結び付いた文化にも合う。上へ行くと光があり、土があり、食べ物が生まれる。そういう場所を人々が特別視してきた、という実感が伴うから。
さらに、新しい設定として、森を保つ水や熱は、下で働く人々が送り続けているとすると、その荘厳さにも奥行きが出る。森から食べ物が届き、都市から森へ水と熱が届く。あの静かな場所も、澪たちが歩いている騒々しい配管の世界とつながっている。
さっきは生産や流通を中心に話したけれど、今の話で、森へ入ること自体に一場面を支える力があると感じた。初めて見せるときは、まず人物が足を止める時間を取りたい。いつも食べているものが育つ場所に、自分はいま立っている。 その感覚だけでも、バベルの見え方が変わる。
8m 32s考えました
まず、深い樹林、畑、牧地、集落が続く、大きな生産圏を「森」と呼ぶ形で膨らませた。そこには本当に木々に覆われた場所があり、歩いて抜けると麦畑や家畜のいる風景へ出る。入口からは、全体の広さが分からない。
ここからは、新しい設定案として考えている。
場所 膨らませたい風景
都市との境目 鉄扉、積替え台、空の収穫箱。その先から土の匂いがする
光の入る農地 麦や野菜が育つ広い場所。採光面の継ぎ目や、巨大構造物の影も見える
果樹と集落 木陰に低い家があり、布が干され、人が食事や作業をしている
牧地と畜舎 牛や羊が顔を上げる。作業者は一頭ごとの違いを知っている
奥の樹林 落葉が積もり、枝の向こうに古い梁が見える。仕事で毎日通る人も、行ったことのない住民もいる
この場所には、育つものによって違う時間が流れていると考えたい。毎日集める卵、収穫を待つ畑、何年も付き合う家畜、人の一生より長く残る樹。その中で、下へ送る貨物の時刻だけは都市の運行に従っている。
静かな風景にも、働く人には締切がある。朝の食卓で話している途中に、荷出しへ呼ばれることもある。NOIRの荘園に感じた特別さを持ちながら、ここにも仕事と私生活が重なっている。
そして、森の住民の中に、違う欲望を置く。
- 都市から来た人が森を羨む横で、若い働き手は都市へ出て、好きな服を着て暮らしたがっている。
- 古い樹を守ってきた人は、自分が好きな景色を変えたくない。畑を広げたい隣人とは折り合わない。
- 家畜の世話をする人は、誰かに仕事を代わってほしいと言いながら、任せると手順へ口を出す。
- 取引をする人は、自分たちの作物をもっと高く買ってほしい。下の街にも食べる事情があることは知っている。
外から見える厳かさと、内側で暮らす人の身勝手さが同居していると、この場所が生きてくる。住民同士が昔から知り合いなら、仕事上の対立に、家族や昔の恋の気まずさまで混ざっていてもいい。
森を支える設備も、その暮らしの中へ置く。木陰で休んでいた人が、遠くのポンプの切替音に一瞬だけ耳を向ける。会話はそのまま続く。住民には、それがいつもの正常な音だと分かる。こういう小さな動作で、森と都市のつながりを見せたい。
第6話では、食べ物の産地が具体的になり、誰かに「そこへ行ってみたい」という望みが生まれるところを入口にするのがよさそうだ。その「誰かと行きたい」が恋愛にもつながる。森へ初めて入る場面は、改めて時間を取って描ける。
次に肉付けしたいのは、ここで暮らす一人だと思う。とくに、来訪者へ森を案内しながら、本人は都市へ出たがっている人物。澪たちが憧れる風景を、その人は毎日見ている。それでも、ここにはないものが欲しい。そこからなら、森の美しさも、暮らしの窮屈さも、会話と行動で広げていける。
3m 19s考えました
その組合せなら、生産の仕組みは高度で、人の結び付きには古い作法が残る生活圏として、森の輪郭がはっきりする。
灌水や温度管理を制御し、機械で収穫や運搬をする。その仕事を終えた人が、婚礼の支度では代々使ってきた布を広げ、古い歌を歌う。本人たちには、それが普通の暮らしなんだね。
ロボットの絵としても、かなり使える。枝越しに白い機体の頭部が現れ、葉に溜まった水が装甲へ落ちる。機体は整備された作業路を進み、その脇では植物の根元へ配管が伸びている。植物、都市設備、機体の三つが、同じ風景の中で働いている。
進が挙げた作品とのつながりを、自分なりに読むとこうなる。
連想する作品 バベルの森へ持ってこられる感触
第08MS小隊 密林の中に機体があることで、その大きさ、重さ、動きが身体的に感じられる
漫画版ナウシカの「森の人」 その環境で暮らす知識が、衣食住や人々の作法にまで染み込んでいる
NOIRの荘園 穏やかな日常と、その場所だけの強い秩序が重なる
『第08MS小隊』はジャングルでの行動を描き、ナウシカの「森の人」は腐海の奥で蟲と共生する人々として描かれている。この二つから、風景と生活の両方を考えられる。
都市へ出たがる若者についても、欲望を具体的にできる。都市で惹かれるのは、服や遊びだけでなく、自分の恋愛や将来を、周囲が全部知っているわけではない暮らしかもしれない。
森では、誰と話していたか、誰を好きだったか、家の仕事をどうするのかまで、知り合いの間で共有されている。婚礼は美しくても、「自分もいずれ、あそこに立つことを期待されている」と感じる。その子には、それが古臭く、息苦しい。
でも、その子自身が式の歌を全部覚えていたり、支度の手順にはうるさかったりすると面白い。出ていきたいのに、祝いの席から自分だけ外されたら傷つく。共同体から離れたい気持ちと、そこで大事にされたい気持ちが両方ある。
結婚式は、この森を描く入口としてよく働くと思う。招待されれば、仕事場だけでなく、住民が誰を身内として迎え、何を祝うのかまで見られる。
儀礼の案も、例えばこういうものが考えられる。
- 家族が受け継いできた布を身に着ける。 普段の作業着と違う姿になり、支度を手伝う人との関係も見える。
- 集落の人々が古い歌を歌う。 信仰として歌う人、歌うのが好きな人、仕方なく口を動かす人が混ざっている。
- 森で育てたものを使い、皆で食卓を作る。 生産物が、その人たち自身の祝いの食事になる。
儀礼には、由来が曖昧になったものや、効率上の意味がなくても続けたいものがあっていい。その場所で生きてきた人の愛着が残るから。
そして婚礼に出席した人の気持ちも、揃わなくていい。澪とセナを呼ぶ展開なら、服を選ぶ楽しさに加えて、相手が式をどう見ているかが気になる。森の若者は早く都市へ戻りたがり、別の人は自分もここで祝われたいと思う。同じ幸せな式を見ながら、それぞれ違うものを欲しがれる。
第6話では、まず誰かの婚礼が決まったという話や、招待が届くところまで出せる。先の回で訪れたとき、作業路に立つ機体の向こうを、晴れ着の人々が木陰へ歩いていく。 そういう絵なら、今話している森の特徴が一つの場面に集まる。
1m 53s考えました
自然だと思う。森へ行く仕事が生まれる理由と、セナとカイが一緒に行く理由が、人物の会話からつながっている。 森の紹介、ロボット、婚礼、恋愛を入れる入口として使いやすい。
とくに、ドリルクローのくだりがいい。カイが自分の機体を思い浮かべて「穴を開けるのは祝いとしてどうなんだ」と考え、セナを推す。機体の役割が会話の軽さになるし、「支える」というセナの仕事に、婚礼らしい意味も重なる。
そこへナギが同行を勧めることで、二人の温度差を出せる。
- セナは、気の進まない仕事へ行く。
- カイは、セナと二人で出掛けることに少し期待する。
- ナギは、仕事の段取りを付けながら、二人の反応も見ている。
カイが最初から同行を狙っていたと決めなくても、勧められて返事が少し早いとか、現地までの道を調べ始めるとか、その程度で「まんざらでもない」は見せられる。セナが同じ気持ちで受け取っている必要もない。
セナの乗り気でなさも、まずは「余興って、私に何をさせるつもりなの」くらいの戸惑いや面倒くささで始められそうだ。現地で意味を知っても、最後まで多少むくれていていい。
一つ具体化すると、導入がさらに強くなるのは、主催者が見たいパフォーマンスの姿だね。例えば、森の木々の間で、白い機体が大きな婚礼の花飾りをゆっくり掲げる。普段は構造物を支える腕が、その日は祝いの場を作っている。これだけでも見たい絵になる。
そして仕事を終えて機体を降りたあと、二人が客として祝いの席に迎えられると、関係を動かせる。セナにとっては仕事の続きでも、カイには、さっきまでとは違う時間になる。晴れ着の人々や古い歌に囲まれて、何を話せばいいのか少し分からなくなる。
第6話では招待と依頼、誰が行くかを決める会話まで置くだけでも、森が「次に行く具体的な場所」になる。この導入なら、到着したときの風景を楽しみに待てる。
